豊島逸夫の手帖

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人民元売り、円買いに走るヘッジファンド

2016年2月17日

春節明けの人民元急騰は、中国人民銀行が人民元高に誘導した結果ではなく、春節中に世界で進行したドル全面安を映す現象だった。人民元安に悩む中国人民銀行にとっては、願ったりの成り行き。

イエレン議会証言をキッカケにドル安傾向が増幅されたことを思えば、周中国人民銀行総裁も、FRBに謝謝の気持ちではないか。

しかし、ヘッジファンドの人民元売り攻勢は収まらない。

周総裁も「投機筋には断固立ち向かう」姿勢を明らかにしている。

とはいえ、現在の中国人民銀行の為替管理政策は、根源的に投機家に有利な制度になっている。

一気に人民元を5%、10%と切り下げると、自国・世界経済へのショック効果が強すぎるので、小刻みに切り下げているからだ。しかし、中国からのマネー流出に歯止めがかからず、中長期的な人民元安は不可避な状況。にもかかわらず、人民銀行は、外貨準備で保有するドルを使い、人民元買い、米ドル売りの介入を繰り返している。これは、投機筋から見れば、高い確率で儲けられる地合いだ。

とにかく人民元を売っておけば、早晩、人民銀行が小幅に人民元安を許容する。そこで、買戻し、再び、新規人民元売りのタイミングを狙う。今回のように、一時的に人民元が急騰すれば、ここぞとばかり、人民元売り注文を繰り出す。

中国人民銀行もかかえるジレンマを見透かされているのだ。

人民元高は輸出産業に打撃となり失業者を生む。いっぽう、人民元安は、中国人の資本逃避を加速させる。このジレンマに直面して、苦肉の策として、「対ドル人民元基準値の設定にあたっては、13か国通貨のバスケットに対する実効レートを考慮する」方針を打ち出した。但し、具体的に、どのように考慮しているのかまでは公表していない。結局、都合に応じて、対ドルレートと実効レートを使い分けていることは明白だ。

この不透明感も、投機筋にとっては、不安な市場を動かしやすい結果となっている。

そもそも、現在、人民銀行が採用している対ドル為替管理政策は、国際経済学の教科書でクローリング・ペッグと呼ばれる。基本的には対ドルレートを上下2%の変動幅(バンド)で固定(ペッグ)する。そのバンドの水準を、這って匍匐前進する(クロール)ごとく、小刻みに切り下げてゆく制度だ。この通貨制度の弊害として、通貨投機を生みやすいことが記されている。

いっぽう、円買いも日銀との我慢比べだが、ここにもヘッジファンドに分があった。

マイナス金利という実質円安政策は、世界のドル安の流れに逆らったタイミングで実施されたからだ。日銀もFRBには勝てない。そんな読みで、ヘッジファンドは一気に円買い攻勢に出た。しかも、「日本の経常収支黒字拡大」というファンダメンタルズも投機筋に味方した。

既にユーロ売りで大儲けして、味をしめたヘッジファンドが、今は、アジア時間まで居残って、頻繁に市場の様子を聞いてくる。

114円台が、今や「円割安水準」になってしまった。

短期間に10円近くも円高に振れる現象は、今のマーケットがパワープレーに席巻されていることの表れである。リスク管理が厳格化された市場ではリスク・テーカー(リスクをとる人)が急減しているので、ヘッジファンドや産油国政府系ファンドなどが大口の注文を出すと、それに立ち向かう相手がいないのだ。

伝家の宝刀、為替介入も、円売り・ドル買いは市場の潮流に逆らうことになり、マイナス金利同様に、かえって政策の限界を露呈する結果になりかねない。しかも、ドル安は大統領選挙中の米国の国益でもある。「急激な変動は望ましくない。」との口先介入にとどめ、言わぬがはな、ならぬ、やらぬがはな、であろう。

実は、ヘッジファンドもギリギリまで追い込まれているのだ。

世界株安連鎖で運用実績が急速に悪化。続出する解約者を引き止めるのに四苦八苦している。そこで、窮鼠猫を噛む如く、中央銀行に逆らうことも辞さずとばかり、背水の陣なのだ。

昨年は「中銀には逆らうな」、いずれ中銀が白馬の騎士役を演じてくれるとの読みが成り立った。しかし、今年は、中銀プットともいわれる緩和救済にも限界が目立つからだ。

唯一の救いは、「バーゲンハンティング」で日本株買いを視野に入れているヘッジファンドが、散見されることか。いまや、日米欧株の「弱さ比べ」という相対評価で運用配分が決まるので、例えば、原油安の恩恵を最も享受する日本株のほうがマシという消去法である。ヘッジファンドの日本株売りが黒船到来のごとくはやされるが、相場観は多様化している。

円買いのファンドもいれば、日本株買いのファンドもいる。

日本と異なり、「よそさん」の動きなど全くお構いなしの軍団である。

金プラチナは株価反発で反落。

1210ドル台と940ドル台。

話題は、ヘッジファンドのポールソンが昨年10~12月期に10.7トンの金を売却していたことが、SECへの四半期報告で判明。ということは、1100ドル台か、あるいはそれ以下の安値で売ってしまったのだね。

同ファンドは、昨年、運用成績が悪化して落ち目のヘッジファンドといわれていた。

やること、裏目に出てばかり、という感じ。

今日の写真は、うちの庭の梅。

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白いの咲いて、ピンクのほうは、今や咲くか、というところ。このくらいが、一番勢いを感じるね。マーケットと同じだ(笑)。

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2016年