豊島逸夫の手帖

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円高の死角、FOMCが陥った金利の罠

2016年4月7日

FOMC声明文よりはるかに長文のFOMC議事録を読んでいると、FRB追加利上げに対するハードルの高さを実感する。この人たちが利上げについてのコンセンサスに達するのは、いつの日のことやら。

「多くのFOMC参加者は、世界の金融・経済が、米国経済に対して顕著な下振れリスクを依然抱える見方を示した。」

FOMC声明文より更に踏み込んだ表現で、中国経済・原油安などの世界経済リスクが利上げをためらわせる要因になっていることを指摘している。

FOMCが安心して再利上げできる世界経済環境とはいかなるものか。

中国経済・人民元相場が安定し、原油価格乱高下も収まり、英国EU離脱問題も波乱なく解決して、新興国経済も成長軌道に乗り、ISが矛を収める、ということか。夢物語としか思えないシナリオだ。

市場の利上げ観測が後退するのも当然であろう。

FOMC議事録で、もう一つ筆者の目を引いた一文がある。

「多くの参加者が、経済活動やインフレ見通しが弱まった場合に、ゼロを多少上回る程度の金利水準では、伝統的金融政策による緩和(利下げ)の余地が少ないことを留意。」

だから、もう少し金利水準は上げて金融正常化を急ぐべし、との議論にもなるし、あとがないのだから経済成長のアタマを叩きかねない利上げには慎重になるべし、との議論にもなる。

金利水準をうっかりいじれない。FOMCが陥った金利の罠とでもいえようか。

拙速な利上げに走り、経済が急速に減速してしまうと、金利プラス圏での伝統的利下げによる緩和という選択肢には絶対的限界がある。FRB悪夢のシナリオは、利上げした挙句に、結局、マイナス金利を導入せねばならぬほど経済が悪化してしまうことなのだろう。

「この数週間での海外の中央銀行による緩和政策が、世界経済リスク軽減に貢献。」との数名(a few)の少数派意見も併記されている。日銀のマイナス金利も多少は評価されているというべきか、評価する人は少ないというべきか、微妙な表現ではある。

そして、市場の反応だが、「イエレン議長率いるFOMCのハト派姿勢を再確認。」と「FOMC内の亀裂が透ける。」との見方が交錯している。総じて、ニューヨーク・エコノミック・クラブでのイエレン講演の影響が依然強く残り、ドル金利は低水準に留まるとの見方は根強い。注目の円相場も、一時は109.30円台にまで急騰した。ハロウィーン緩和直前の水準ギリギリのところだ。

いっぽう、もう一つの円高要因である原油安については、米国の原油在庫が減少というサプライズで、原油先物価格が急騰。NYMEXのフロアーに直接聞いてみると、「40ドルは高いが35ドルは安い。」との相場観が煮詰まってきている。

円相場に関しては、原油より、米金融政策の相対的重要性が増してきた。その司令塔であるFOMCは、議事録を読むかぎり、まだ言質をとらせない記述に終始している。当面は円高圧力が強いが、一転利上げでちゃぶ台返しのリスクも滲む。


なお、日銀介入に関して、通貨先物投機の世界では、「仮に実行すれば、逆に短期的ドル安円高の勢いを実感させられるだけ。世界のドル安傾向に逆らうかたちで、ドル高・円安狙いのマイナス金利を導入して、結局円の上げ足を速めてしまっただけに、日銀は動きにくい。」との見方が多い。

BOJ=日銀という単語が頻繁に会話に出てくるところに、円高が今や欧米市場でも注目材料になったことを実感する。

FOMCも「安全通貨」とされる円の相場をVIX指数のごとく、世界経済リスクのベンチマークとしてフォローすることになるかもしれない。

金価格は、ドル安にもかかわらず、市況の法則に反して、売られた。やはり、利上げが緩やかなペースとはいえ、いずれ実行されるとなると、金利がつかない金は売られる。そこで下がって1200ドル割れを待ち構えているのが中国・インドの現物買いという構図だ。

それから、「パナマ文書」については、明後日土曜の朝9時半からABC朝日放送に生出演して解説する。

2016年