豊島逸夫の手帖

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リオ五輪大丈夫か?ブラジルの政治経済危機

2016年3月18日

弾劾の危機に瀕するブラジルのルセフ大統領が、これまた収賄疑惑の渦中にある元大統領ルラ氏を官房長官に入閣させ、「閣僚は最高裁しか起訴できない」規則を利用しようとしていることで、再びブラジル国民の怒りが爆発。退任後もカリスマ的人気を維持するルラ氏の政治力を借りて、自らの弾劾も避けようとのルセフ大統領の思惑も透ける。

ブラジルのデモと言うと、巨大アヒルがしばしば見られる。

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ブラジルでは、アヒルは愚か者を意味するスラング。「アヒルを支払うつもりはない」という慣用句もある。これは「他人の失敗のツケを払うつもりはない」という意味で「我々は税金をこれ以上支払わない」との意志表示とのこと。いっぽう、ルラ氏を模した巨大人形には、囚人服が着せられている。汚職事件で捕まると揶揄しているのだ。

国民の不満は政治腐敗だけではなく、なんといっても経済衰退にある。

ブラジル経済は中国経済と一蓮托生だ。

中国が高度成長期に最も必要としていた、鉄鉱石・原油そして大豆などをブラジルが生産するので、中国向け輸出で稼ぎ、社会保障からインフラ投資までばらまき財政を賄ってきた。

そもそも、2007年にブラジル沖で世界最大級の埋蔵量の海底油田が発見されたことで舞い上がった。当時のルラ大統領は「神の采配だ。」とか「未来へのパスポートだ。」とかおおはしゃぎした。世界の投資家たちも新興国投資の代表格としてブラジルに巨額のマネーを入れた。日本でもレアル建て投資信託が大ヒット商品となった。

しかし、頼みの中国経済が停滞して、商品価格も急落するや、ブラジル経済も一気に逆回転。ただでさえ、90年代には年率4000%のハイパーインフレを引き起こした国。その国の通貨レアルがピークの70円台から30円台にまで暴落するや、輸入品の価格急騰でインフレ率も二桁に。経済成長率も2010年には10%近くまで上昇したが、昨年今年とマイナス3%台まで急落している。2015年の財政赤字は約18兆円相当で、この5年で5倍に膨らんでいる。ルセフ大統領は今年の基礎的財政収支を小幅黒字に改善させると言っているが、歳出は減らせず、歳入は落ち込むばかりでは、まず無理筋だ。

そこに、ブラジルを揺るがす汚職事件が勃発(といっても日常茶飯事だが)。国営石油会社ペトロブラス社から議員や政党へ約9800億円ものカネが流れていた可能性が指摘された。ルラ氏も約9億円と不動産を不正に受け取ったとされ今月事情聴取された。このペトロブラスには、三菱重工やIHIなども出資しており、深海油田開発に参加していたが、この汚職スキャンダルでかなりの損失を被った。

そこで、心配なのがリオ五輪。

大会主催者は「競技会場の建設は順調。」と言っているが、会場を結ぶ地下鉄工事などには遅れが出ている模様。さらに、セーリングやトライアスロン、ボートの会場となる湾岸部グアナバラ湾の水質汚染が深刻で競技開催が危ぶまれるほど。何せ、巨大なトイレといわれる。汚染の原因は下水処理場の遅れ。リオの人口600万人の、生活排水の7割が同湾に流れ込む。更に汚染に拍車をかけるのが、リオの貧民街。100万人以上が住むといわれるが、下水処理施設の整備はほとんど手付かず。リオ政府は五輪開催までに同湾に流入する汚水の80%を下水処理できるようにすると公約した。この処理事業には日本のJICAも支援しているが、あまり整備は進んでいないようだ。

五輪開催にまでなんとか持ち込んでも、あちこちで不具合が生じるのは必至の状況である。

この件については、明日3月19日ABC朝日放送朝9時半から11時の「正義のミカタ」に生出演して20分ほど語る。

YOU TUBEでも流れると思うよ。

2016年