豊島逸夫の手帖

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中国経済指導部内の亀裂

2016年8月10日

中国共産党機関紙の人民日報が最近「権威人士」と称する匿名の中国高官の発言をときおり記事として載せていることが話題になっている。

この人物は公然と中国経済の問題点をズバリと指摘している。

需要低迷と生産過剰の中国経済に、V字型やU字型の回復は無理。鈍い回復のL字型となろう。高水準の債務の整理、旧来型ゾンビ企業の淘汰などが不可欠である。安易に金融緩和を重ねても、バブルの芽をばらまくだけだ。金融緩和で構造問題は解決できない。

これだけはっきりモノを言えるのは、いったい誰なのか。

習近平主席の経済ブレーンである劉鶴氏(64歳)なのではないか、との見方が強い。

同氏は、米中戦略会議前の根回しで、李克強首相をさしおいて単身渡米。ルー財務長官と直接話し合ったほどの人物だ。一帯一路構想にも深く関わり、来年の党大会では政治局委員に指名される可能性も指摘される。

李首相はこれまで景気浮揚策を主導してきたので、「習主席による李首相への批判」とも読める。

ちなみに、「権威人士」という単語は、1940年代に毛沢東氏が蒋介石氏を批判する際に、新聞紙上で使った表現とされる。

「成長」か「改革」か。中国経済は岐路に立っている。

債務膨張に頼った経済回復は短命に終わる。しかし、金融緩和は麻薬のようなもので、止めてしまうとショック症状を引き起こす。

中国の指導部内で、今後の経済戦略を巡り、不協和音が顕在化していることは間違いない。

ただ、「成長優先」か「改革優先」か、との選択に正解はない。どちらも副作用を伴う。

最後は、習近平氏が、李克強首相をスケープゴートにするのではないか。

北京の奥座敷には、きな臭い雰囲気が漂う。

為替・金業務を通じて知り合った上海の銀行筋の人たちも、視線は常に北京を向いている。

2016年