豊島逸夫の手帖

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チャイナ・リスク

2016年9月8日

筆者にとって、中国経済は身近な存在だ。2002年から上海の金取引所や商業銀行貴金属部門のアドバイザリーを務めたからだ。「金」という特殊ルートを通じて、北京の奥の院への出入りを許されたようなものだ。そこで、解放経済の過程を現地の銀行の中から見てきた。

中国経済がかかえるリスクも肌で感じてきた。

現時点で最も気になることは、地方政府と国営企業がかかえる膨大な債務の後始末だ。

もとはと言えば、リーマンショック後、経済回復のために実施された超大型財政刺激策である。その結果、マクロ的な「供給ストック過剰」に陥り、不動産バブルと破たんを誘発したことは既に知られるところだ。

現状も、未だにいわゆる「ストック調整」の過程にある。

具体的には、輸出・公共事業依存型から内需主導型経済への移行である。

リスクは、このような根源的構造改革を、経済減速という逆風の中で実施せねばならぬということ。更に、旧経済モデルを「創造的に破壊」することは、あまりに経済的ショックが大きいので、公共事業によるインフラ建設も既に過剰と知りつつ継続せねばならぬ。同時に、過渡期に経済減速を伴う「内需主導」型への移行を進めることになる。

膨大なインフラ投資の負の遺産である地方政府や国営企業の膨大な債務の整理を進めるためには、彼らのかかえる借金の一部を地方債に切り替えるスワップ措置も認めた。銀行融資金利が年率7~8%のところ、地方債にすれば3~4%で済む。その地方債を誰が引き受けるのかといえば、民間銀行だ。しかし、ただでさえ銀行の経営は厳しい。段階的な預金金利の自由化により、預金による資金調達コストが上昇しているうえに、不動産不況のあおりで不良債権が増えているからだ。そこで、地方債を担保に中国人民銀行から融資をうけられる制度を創設している。更に、マクロ的には、銀行救済目的もかねて、中国当局は相次いで金融緩和政策を打ち出している。しかし、これで地方や国営企業の債務が首尾よく軽減できるのか、極めて不透明だ。

いっぽう、内需主導型経済への移行の過程では個人消費関連のリスクが顕在化している。日本では爆買いが目立つが、あれは、ほんの一握りの恵まれた層の人たちだ。一般庶民は、旅行どころか、日々の医療費など日常生活を賄うので精いっぱいだ。更に、中国の年金制度が未発達なので、将来への不安感から、貯蓄に走る人が多い。「国際経済不均衡」の最大要因とされた中国の過剰貯蓄状況は変わっていない。

そこで、年金を含めた社会保障基金の充実が重要になってくる。

実態は、公務員とサラリーマンの年金格差がひどい。

8百万人の役所で働く公務員と3千2百万人の公的施設で働く教師・医師など準公務員は、年金個人負担を免除されているのだ。

いっぽう、サラリーマンは、自己負担で給与の8%を天引きされる。

しかも、公務員年金の拠出は、すべて、地方政府の歳出に依存してきた。

この官民の年金格差は、大きな社会問題であったが、ようやく、一本化にむけた動きが出てきた。被雇用者8%、雇用者20%の共同負担での一元化を目指す。

更に、受給年金も、公務員は在職中の給料の80%程度に対し、民間は良くて50%という格差があった。ここにもメスを入れる。

しかし、実施までの道のりは平たんではない。

人口動態的には、中国経済の少子高齢化問題が重くのしかかるからだ。

国連の予測では、65歳以上が、2015年の1億3千3百万人から2050年には3億3千1百万人に急増する。

いっぽう、15~64歳の現役組は同10億人から8億4千9百万人に急減。

この両世代の人口比率は、シニア層13%から39%に跳ね上がるのだ。

年金改革に関しては、「抵抗勢力」の公務員たちも強く反発している。

年金負担を義務づけるなら、給料をあげろ、と要求する教師たちのデモなどが頻発しているのだ。医師や教授の早期退職も増えつつあるという。

社会保障といえば、健康保険も、都市戸籍と地方戸籍保有者で大きな差がある。都市戸籍者は、個人2%、事業主6%の拠出で、診療費の一部が賄われる。一方、地方戸籍者には、かつて人民公社が相互扶助制度を共産主義体制の元で全国的に普及させていた。しかし、現在は資金難で形骸化して、大部分の農民は私費での医療が現実だ。

ここでも、国民の不満は鬱積している。

個人消費主導経済への移行過程では、社会不安リスクが不可避な情勢だ。

そして、今日の旨いもん写真は、京都の、サバずし。これが、ホンモノ!鯖の厚み。シャキッとした海苔の食感。たまらんね~~。

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そして、第二の故郷、福島から送られてきた桃!

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伊達市は桃の大生産地。盆地だから気温の差が大きく、果物栽培に適している。食らいつくと、まわりが水だらけになるほどジューシー。

2016年