豊島逸夫の手帖

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95円の現実味

2016年8月18日


「ヘッジファンドは1ドル=100円が目標だが、一気に99円を試すことはない。ただし、円安に反転したところでは、再度、円買いの仕掛けがあろう。その時は95円狙いとなる可能性あり。」
3日付け本欄「どこまで続く円高」に書いたことだ。

そして、今週に入り、99円台に突入。
英EU離脱ショックが一巡したところで、ポンド売りで稼いだ投機マネーが、勢いを駆って円買いに動き始めた。


直近では、ダドリーNY連銀総裁、ロックハート・アトランタ連銀総裁の「9月利上げ可能性示唆発言」という牽制球で、かろうじて円高進行が抑制されていた。
しかし、7月FOMC議事要旨が市場ではハト派的トーン強しと受け止められ、注目の26日ジャクソンホール中央銀行会議でのイエレン講演も、ドル売りの材料になりやすい展開となっている。
「データ次第の利上げ判断」として注目の米マクロ経済指標も、7月雇用統計がほぼ満点ともいえる数字だったが、小売り統計と物価上昇率が冴えず、効果を帳消しにした。
通貨投機筋が一気に円買いを仕掛けるタイミングとしては、9月FOMC。そして、日本側が円売り介入に踏み切ったときだろう。


まず、9月利上げが見送られるケース。
既に9月利上げ説は市場内で少数派になっているものの、上記地区連銀総裁発言が明確に否定されることで、円高牽制の糸が切れるごとき結果になる。FRBと市場の間の不協和音も強まろう。市場を荒らす意図を持った参加者にとっては願ったりの市場環境になる。
次に、介入が実行された場合。
日銀の介入担当部門は、高速度取引という新兵器を駆使する投機筋と初めて直接市場で相まみえることになる。日本側も徹底抗戦するだろうが、NY為替市場の実態を見るに、かなり手ごわい。介入は口先の段階が有効だが、実行すると、その限界を露呈することになると感じている。マイナス金利導入時と同様に、一時的に円安に振れても、かえって円買いのキッカケを与えるリスクがあるのだ。
そもそも、米国側の協調なしの単独介入は無理筋と足元を読まれている。


なお、ヘッジファンド側も、顧客の解約に歯止めがかからず、存続の危機といっても過言ではない。筆者も、彼らの、窮鼠猫を噛むごとき焦燥感をNYの現場で感じた。
そして、9月に95円台のシナリオの現実味が増している。

2016年