豊島逸夫の手帖

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あばれる人民元、もてあます人民銀行

2016年1月12日

中国人民銀行がもがいている。

これまでの度重なる利下げ、銀行預金準備率引き下げにもかかわらず、経済不安は増すばかりだ、逆に、同銀行の人民元基準値設定が市場波乱要因となってしまった。

人民元相場を市場原理に任せれば、下げに拍車がかかる。市民は資本逃避に走り、米利上げに誘発されたマネー引き揚げが加速する。そこで、人民元買い、ドル売りの市場介入を繰り返せば、市中の流動性を吸い上げ、引き締め効果という合併症を生んでしまう。

その足元を見透かすかのように、投機筋が、規制の及ばぬオフショア市場で、人民元売りの波状攻撃をかけ、オンショア人民元とのかい離が顕在化した。オンショアとオフショアに値差が生じれば、そこに裁定取引の余地がうまれ、外資系金融機関は、割高のオンショア人民元売り、割安のオフショア人民元買いで容易に差益を稼ぐことができる。このような裁定取引に対して圧力をかけて撲滅しようとしても、もぐら叩きのようなものだ。そこで、人民銀行は香港のオフショア人民元市場で人民元買いオペを行い、現地市場の人民元流動性を吸い上げにかかっている。その結果、HIBORと呼ばれる、LIBORの人民元版のレートが一日で5~6%以上急騰する異常な現象も生じた。元々、人民元オフショア市場の規模は相対的に大きくはないことを示す事例でもある。それゆえ、介入によるオンショアとオフショアの乖離縮小は可能であろう。しかし、なりふりかまわぬ市場介入は、SDRの構成通貨として国際通貨のステータスを得た人民元への信頼を損ねるは必至だ。

しかも、資本逃避に歯止めをかけるため、市民の人民元売り、ドル買いに目を光らせている。しかし、規制すれば、抜け穴探しが始まるもの。昨年は地下銀行摘発の事例もあった。

更に、国際通貨として認められるにあたって課せられた自由化の条件にも反することになる。IMFや米国が黙ってはいまい。

いっぽう、経済成長率目標達成のため党からは、人民元安による輸出促進効果を期待される。

中国個人投資家が人民元を売る行為は、中国経済に対する「不信任投票」ともいえるが、中国輸出企業にとっては歓迎すべき傾向となるわけだ。

このジレンマに対して、中国人民銀行は、日々設定される「基準値」の決定プロセスに煙幕をはるかのごとき政策を採りはじめた。

そもそも、対ドルでの人民元基準値は、前日の終値をベースに決定される建前である。その際に他通貨をふくむ通貨バスケットに対する人民元実効レートも「参考」にすると言いだしたのだ。その内訳は、米ドル26.4%、ユーロ21.4%、円14.7%、香港ドル6.5%。加えて、豪ドル、ニュージーランドドル、カナダドル合わせて9.4%。そして、タイ・バーツ、マレーシア・リンギット、シンガポール・ドルも合わせて11.8%である。

この実効レートでみれば、人民元は、殆ど下がっていない。したがって、対ドル・人民元レートは未だ下げ余地があると見ることもできる。

しかし、人民銀行は、この実効レートをどのように「参考」にして、対ドル基準値を決めるのかまでは明らかにしてない。ここに不透明性が生じ、市場を疑心暗鬼にさせている。

今の時代、先進国の中央銀行には、金融政策の方向性を明示するため、市場とのコミュニケーションを図ることが求められている。SDR構成通貨のお墨付きを得た人民元を発行する中国人民銀行とて例外扱いはされない。

おそらく、そんなことは、人民銀行幹部も承知のことだろう。ただ、中央銀行の独立性は無い国ゆえ、不本意な動きを強いられていると思われる。筆者が接してきた、国家外貨管理局(通称SAFE)の担当者たちは、アルマーニのスーツを着こなし、中国語訛りのない英語をしゃべった。ウォール街の匂いが漂い、欧米での教育・トレーニー体験が感じられた。極めて有能なテクノクラート集団だった。

彼らとて、人民元レート設定が、NY市場では、株式市場を揺らせ、人民元発ドル高が原油30ドル接近の要因になる展開になろうとは、まさに想定外の事と思われる。

とはいえ、中国人民銀行の人民元管理に関する不透明性が払しょくできなければ、市場のボラティリティー(価格変動)は容易に収まりそうにない。

ことマーケットに対しては、力の支配が及ばないことを、習近平主席も高い授業料を払って学んだのではないか。

なお、このドタバタのトバッチリを受けたのがプラチナ。リスクオフで売られ、円高も重なり、100円以上の下げ。ここは、また、買いが入りそう。

金は1100ドル台、維持できず。

さて、今晩は、BSフジ、プライムニュースの「中国経済特集」に2時間生出演。中国専門家二人と議論。

http://www.bsfuji.tv/primenews/


そして、今日発売の週刊エコノミストでは、昔、ゴールドディーラー仲間だった、高井裕之、住商グローバルリサーチ社長と対談。

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週刊東洋経済では、外国人投資家売買動向についてインタビュー。

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もう一つの写真は、先週金曜に報道ステーション(テレ朝)に出演した時の映像。

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2016年