豊島逸夫の手帖

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為替介入はAIとの対局

2016年5月13日

G20におけるルー財務長官の「現在の通貨水準は秩序的」との発言。対して、麻生財務相は「介入も辞さず」の方針を明確に語る。しかし、事を荒立てては双方の利益にならない。お互い暗黙の了解あってのやり取りにも見える。とはいえ、為替報告書で「監視対象国」に日本を入れ、「制裁」も明示したことは、通貨戦争の最終通告とも受け取られかねない。危ない綱渡りだ。

いっぽう、現場を見ると、介入が実行される外為市場の構造が劇的に変化している。従来の介入での経験はもはや参考にならない。

その最大の特徴は、通貨投機筋が高速度取引という新兵器を入手して、使い方にも習熟してきたことだ。

例えば、当局が、105円で円売り介入したとする。

まず場に出ている円買い注文にはすべて売りに向かう。介入と分かった瞬間に、円買い持ち(ロング)のトレーダーは一斉に円売りのストップロス(見切り)を実行する。

更に、当局は波状攻撃で新規の円売り注文を大量に市場へ出す。

従来は、これに逆らえる民間の市場参加者はいなかった。

しかし、今では、NY市場の高速度取引を駆使するファンドが集まれば、瞬間的に大量の円買い注文をコンピューターで発動することにより、当局の円売り介入に充分対抗できるのだ。

そもそも、この高速度取引こそが、今年に入っての急速な円高劇の仕掛け役だ。取引の薄い時間帯を狙って、集中的な円買い攻勢をかけ、抵抗線を次々にブレークしてきた。ほぼ連戦連勝で勢いに乗っているので、介入おそるるに足らず、といわんばかりだ。

足元では、ファンドの決算期でもあり、手仕舞いの円売りが目立つ。

しかし、円が安くなったところは、再度買い攻撃を仕掛ける目論見が透ける。

とはいえ、円買いの波も早晩臨界点に達するは必至だ。

そこで、売り損ね、逃げ損ね、大きな損失をかかえる事例が過去にもあった。小刻みに稼ぎ、大きなトレンド転換のときに、大損しがちなのだ。ゼロサムゲーム参加者の宿命で、買ったものは、売り戻さねばならない。

いっぽう、当局は円売りっぱなしができる。これが、かれらの最大の武器であろう。

NYのクジラと当局のせめぎあいは、かりに実現すれば、前例のない「通貨戦争」の光景となろう。

なにやら、AIと当局の対局を連想させる。

金市場もAIとのせめぎあい。

1300ドルが壁。

中国の現物需要は、高値で閑古鳥。

2016年