豊島逸夫の手帖

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どこまで続く円高

2016年5月24日

以下は先月号の日経マネー「豊島逸夫の世界経済深層真理」に書いた原稿。

相場を見るには三つの目が必要だ。

現場で現在進行形で起きていることを見る「虫の目」

市場の底流を読む「魚の目」

そして、長期的トレンドを俯瞰する「鳥の目」。

この三つのどれが欠けてもいけない。バランス良い複眼構造が肝要だ。

そこで、三つの目で円高を見てみよう。

まず、虫の目で見ると、シカゴIMM通貨先物市場で、投機的円買いポジションが異常に膨張している。この買いの主体はヘッジファンド。彼らは、円買いトレードが過熱気味と感じ始めている。Crowded ドル円市場で買いポジションが混み合い始めたと語る。プロは、混み合ってきた市場に不安感を覚え、ライバルより早く抜け出したいと思うものだ。その点、個人投資家は、混み合った市場で、皆と同じ事をやっていると、安心する。赤信号も皆で渡れば怖くないという心境だ。逆に、ガラガラにすいた市場に入ってゆくと、孤独感に襲われ、自分が群れから離れてとんでもない間違いをしているのではないか、との恐怖心に囚われる。本稿執筆時点では、プロの通貨先物投機家たちが、お腹いっぱいになるくらい円を買い込み、利益確定売りの機会を虎視眈々と狙っている。ドル円市場には、先物円買いの売り戻しという売りエネルギーが静かに蓄積しているのだ。早晩、その円売りマグマの噴火は避けられまい。

次に、魚の目で見ると、イエレン議長や地区連銀総裁の発言で、米利上げ観測が台頭・後退を繰り返している。要は、イエレン氏でも、いつ利上げすべきか分からない。だから市場は不安になり、ドル円相場も乱高下する。しかし、底流は、ドル金利がいずれ上がってゆくのは間違いない。対して、円金利はマイナスが常態化するは必定だ。FRBは引き締め、日銀は緩和継続の流れは変わっていない。ただ、米国サイドで引き締め=利上げの実施時期が後ずれしているだけだ。その要因は中国・原油・英国のEU離脱・ISテロなど海外リスクである。しかし、これら4つの大きな問題が同時に終息することなど考えられないので、どこかで、イエレン議長は、妥協を強いられ、利上げの決断を迫られる。こう考えてくると、魚の目で見れば、やはりドル高・円安ということになる。特に、今や、円が「安全通貨」とされ、リスクオフのときに集中的に買われる局面が頻発している。この逃避マネーのドル円市場流入現象は今後も起こるだろう。但し、この現象は一過性だ。マネーが円の軒下で雨宿りしているのだが、通り雨が過ぎれば、三々五々散ってゆく。いくら「安全通貨」といわれても、円に長居する気はサラサラない。

そして、鳥の目で俯瞰してみよう。

ここでは、少子高齢化で、しかも移民を拒む国の稼ぐ力が、長期的に弱まってゆくことは間違いない。相対的に、米国経済にはダイナミックなパワーを感じるが、日本経済はおとなしい。マネーは稼ぐ力が強いほうに集まるので、円よりドルが選好されることは当然の成りゆきであろう。筆者の友人で著名投資家のジム・ロジャーズ氏も、トレーディングである時期に円を買うことはあっても、娘に残す資産として円をもつ気はないと語る。筆者が彼のシンガポールの豪邸を訪ね対談するたびに「君は、シンガポールくんだりまで来て経済なんぞの話をする時間があるなら、もっと子づくりに励め。君の国に一番足りないものだろう。」と彼独特のユーモアを交えた表現で厳しい現実を語るのだ。

たしかに、米国経済のダイナミズムは認めざるを得ない。

ひとつエピソードを披露しよう。ゴールドマンサックスのブランクファインCEOは、金のセールスマンだった。NYの貴金属会社に勤めていたのだが、GSにより買収され、GSの社員となり、その後、トントン拍子に出世街道を登りつめたのだ。日本でいえば、貴金属商を大手銀行が買収して、その貴金属商の営業部長が、大手銀行頭取になったような話である。まず、日本では、考えられないシナリオだ。

鳥の目で見れば、まず確実にドルが買われ、円が売られる。

2016年に入って、まだ4か月程度で、構造的円高の時代に入ったとは、とても言える状況ではないことが、お分かりいただけたと思う。

ゆえに、資産の一部は外貨建てで持つべし。円高ドル安を、絶好の買いのタイミングと見れば、寧ろ歓迎すべき現象かもしれない。

以上

この「原稿執筆時点」が4月初旬。円高が急進行して105円を試す展開のときだった。その後、「虫の目」で見たごとく、膨張した投機的円買いの売り戻しが進み、110円近傍まで戻している。

とはいえ、まだ、短期的には円高の流れに歯止めはかからない。

「魚の目」のシナリオになるのが、今年後半と見ている。

特に、金市場は米利上げ=ドル高を見越して、NY市場では売り込まれ1250ドルの大台を割り込んだ。プラチナは1000ドルの大台ギリギリの展開である。ドル高・円安になると、ドル建て金価格は下がるが、それ以上のスピードで円安が進行しがちなので、円建て金価格は下がりにくく上がりやすい。

なお、昨日発売のAERA。「1ドル95円時代に再突入-為替監視国入りで介入不可能に」とのセンセーショナルな見出し記事に引用されている。

私はあくまで円安派の発言だけどね。見出しは円高っぽい。

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昨日生出演した日テレ系「ミヤネ屋」でも、円相場の話をもっとするところだったが、時間切れで果たせず。そもそも地上波では専門的な為替の話は受け入れられない。私もつとめて分かりやすく噛み砕いて(これが一番難しいのだけど 笑)説いている。

そして、今日の旨いもん写真。

白身の魚と野菜のコラボ。

ウドとの相性が良かった。

火の通し方もベスト。

野菜、それも、新鮮な野菜たっぷりは嬉しいね。

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2016年