豊島逸夫の手帖

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習近平 腐敗撲滅 萎縮する金融界

2016年1月21日


中国民間銀行マンたちが、怯えている。
腐敗撲滅が強化され、民間銀行の、日本で言えば、部長次長級にまで、捜査対象が拡大されてきたからだ。
その典型が、上司への贈答品。日本のお歳暮の如く一般化した慣習だが、高額品も珍しくない。奥様へと大ぶりのゴールドジュエリーが購入され贈られた事例を目撃したこともある。筆者が金にも詳しいと知れると、中年男性行員から、イタリアのゴールドジュエリーのブランドは、どれが良いかなどと尋ねられることも珍しくなかった。
ヨットクラブの会員となって、船内での派手な飲食接待という例もあった。大都市のヨットクラブといえば、まさにセレブの世界で、普通の銀行中堅幹部が会員になれることは稀だ。そこが、まずは疑われる。更に、参加した銀行員たちも、連座させられたようだ。筆者も、ゲストということで招待されたことがあるが、たしかに身の丈を越えたおもてなしであった。水上から見る高層ビル群のネオンが印象的だった。

背景には、行内の人事考課が透明性・公明性を欠くという企業風土が指摘できる。そもそも、大手民間銀行は、国策銀行だ。党への貢献度も考慮される。そこに、中国型自由主義経済の縮図を見る。幹部の個室には、国家主席の写真と国旗がデスクの後ろに飾られている。名刺を見たら、銀行の肩書と同列に、地方区党書記などのタイトルが誇らしげに印刷されていたこともあった。

銀行業務においても、しばしば市場経済原理が無視される。
例えば、過剰債務をかかえた地方政府発行の地方債を引き受けさせられる、という事例がある。これまでは、地方政府の資金調達といえば、大手銀行からの融資であった。しかし、それにより、中小企業への融資が押し出され(クラウディング・アウト)、結局、影の銀行への依存度が高まるという弊害が生じていた。
そこで、地方債発行による資金調達が「奨励」された。銀行融資だと金利が7~9%程度かかるところ、地方債だと3~4%程度で済むので、地方政府の金利負担軽減という救済策となる。更に、直接金融と間接金融の共存は、市場の厚みを増すので、経済合理性もある。しかし、借金まみれの地方政府が発行した債券を引き受けさせられる国策銀行にとっては、バランスシート毀損を招くリスクがある。そこで、当局も「甘味剤」として、当該地方債を中国人民銀行の適格担保とすることを認めた。
かたちばかりは、債券市場経由の資金調達となったが、当局の指導による、低格付け私募債押し付け発行のようなものだ。


俯瞰すれば、株式市場が機能不全状態ゆえ、国内債券市場拡充が喫緊の課題であることはたしかだ。外国人投資家の参入を自由化することで、流動性増加が期待できる。習近平主席が、人民元のSDR構成通貨入りに、あれほどこだわったのも、経済ブレーンからのアドバイスがあったためと言われる。人民元の信頼性が高まれば、中国の債券市場のインフラも堅固になるとの読みだった。その人民元が、自由化された香港オフショア市場で売られることが、世界株安のキッカケになろうとは思いもしなかったであろう。ちなみに、習主席の経済ブレーンといえば、ハーバード卒の劉鶴氏が有力で、李克強首相は共青団出身ゆえ、対立する太子党出身の習近平氏から疎まれる傾向が指摘されている。今回の上海株急落の不始末についても、いずれ李首相が詰め腹切らされるとの噂も絶えない。世界株安について今週ルー米財務長官が、中国側と電話会談した際に、相手が劉鶴氏であったことも示唆的である。


いっぽう、もう一つの課題である国営企業改革も遅々として進まない。M&Aで合理化を目指しても、単に大企業がそのままの規模で合併したに過ぎず、生産性が高まらない。とはいえ、規模だけは世界有数企業の誕生となるので、その事実のみが誇らしげに囃される。あるいは、部分民営化と称して、身内の資本が買い取る例もある。そこで、業を煮やした習主席は、国営企業幹部を腐敗撲滅の錦の御旗のもとに放逐したりするのだが、代わって就任した人物は習主席の子飼いと噂される人物だったりする。結局、縁故人事の域を出ない。


かくして、筆者は、たまたま、中国の民間銀行内から開放経済の成り行きを見てきたわけだが、社会主義と資本主義共存の限界を肌で感じている。


銀行支店新規開店祝賀行事。


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ダルマ目入れのような儀式。
その後の恒例会食会に招待されるのは重要顧客ではなく地方の党幹部たち。しかし、腐敗撲滅運動により、最近は地味になった。


さて、これだけ相場が荒れると、さすがに金価格も1100ドルを回復した。


気になる動きは、習近平サウジ訪問。冷房用原子炉開発で合意。AramcoとSinopec両国巨大原油国営企業のジョイントベンチャーも。次の訪問中はエジプト、そしてイラン。中東混乱を機に仲介役で存在感強める戦略が透ける。


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それから、英語勉強用素材。筆者の最新英文原稿。人民元のかかえるアキレス腱↓


http://asia.nikkei.com/Politics-Economy/Economy/Yuan-still-on-a-walk-in-the-woods


2016年のチャイナリスク


http://asia.nikkei.com/Markets/Equities/China-remains-vulnerable-to-market-risks


相場大荒れで、肉食系になってます。
昨晩は、分厚い300グラムぺロリ(笑)。


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昨日一番受けたのは、「長期保有するのは奥さんだけ」!私は、一回銘柄変更しましたが、その後ポートフォリオ・リバランスしてません♪

2016年