豊島逸夫の手帖

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中国「理財商品リスク」強まる切迫感

2016年12月22日


「これまで簿外扱いだった理財商品をバランスシートに載せよと言われても困る。ただでさえ巨額の不良債権処理に難渋しているのに、更に、理財商品について自己資本・引当金積み増しを求められても無理筋だ」
中国の民間銀行もお手上げだ。


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理財商品とは、石炭などの会社にシャドーバンクが投資して組成する商品で、ハイリスクハイリターンの典型的商品だ。販売は民間銀行が行なうが、ディスクレなどのリスク開示は無い。ゆえに、購入する個人投資家は、当該銀行が組成した商品と思い、購入してきた。2011年前後に販売のピークを迎え、その後、株式・不動産にマネーがシフトしたが、今年になって、行き場を失ったマネーが再び理財商品に戻り始めている。そこで、危機感を強めた銀監会(中国銀行業監督管理委員会)は、理財商品の監督強化に乗り出した。


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しかし、巨額の不良債権をかかえる民間銀行の財務体力は脆弱化している。結局は、公的救済頼みが実情だ。とはいえ、これはモラルハザードを増長する。困ったときの御上頼み、の風潮は、民間銀行にも個人投資家にも沁みついている。中国政府としては、パニックが起きない程度に、民間にもリスクの痛みを味あわせねばならぬ。そこで、試験的に一部の理財商品について破たんを容認する事例も出てきている。しかし、破たんが続けば、個人の債権者たちが、組成したシャドーバンクや販売した大手銀行に押し掛ける事態に発展するは必至だ。当面は、当局がウェイボー(中国版ツイッター)などへの書き込みを削除しているようだが、これは限界がある。中国金融メディア財新も、当局の銀行リスク管理に関するガイドラインは具体性に欠け、大きな改善は望めないとしている。


筆者も、中国国内の個人マネーが過剰流動性と化し、不動産・株式・商品先物・ビットコイン・理財商品と回遊するさまを目撃した。上海のセミナーで講演したときには、循環物色で、目先のリターンを追求する個人投資家の群れに遭遇した感があった。問題は、彼らの金融知識が極めて低いことだ。取引所前のホールで、400人ほど集まったセミナーだったが、場内には集団心理が席巻していた。


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2017年には、理財商品破たんリスクが知れ渡り、これまで局所的に抑え込まれていた取り付け騒動が頻発・拡散する可能性も否定できない。党の長老たちが最も嫌う社会不安を醸成するので、結局、中央・地方政府により救済されることになろう。既に、構造改革を旗印に掲げつつ、実際の政策運営の軸足は、経済成長重視に戻っている。
しかし、問題を先送りすれば、債務は膨張して、最終的に破たんショックが強まるだけだ。


銀監会の規制強化に対しても、民間の銀行家の多くは、肩をすくめるだけである。
力の支配を強める習近平国家主席の誤算は、人間の心や欲までは、支配できないことだった。市場の取引を制約しても、シャドーバンクに流れるマネーとのいたちごっこになるだけだ。
当然、おカネの流れは国外逃避を目指す。
しかし、国際資本取引の規制を強めれば、SDR入りにより国際通貨のお墨付きを得た人民元の信認に関わる。危うい綱渡りを強いられる当局の姿が透け、2017年の人民元相場も不安定な状況が更に増幅されそうだ。
そこで、理財商品問題にも、市場は注視せざるを得ない。


さて、金価格は、トルコ・ドイツのテロ事件で、一旦、有事の金買いにより買われたが、ドル高の影響が勝り、1130ドル前後で推移している。今日の日経朝刊マーケット面には金価格記事。有事の金買いが活字になる頃には、もう売られている。有事の金買いは再三述べてきたように続かない。そして、同M&I面には、プラチナ割安感の記事。志田論説委員が書いた。まとまった良い記事。


そして、今日はマネー誌発売日。
日経マネーでは「豊島逸夫の世界経済深層真理」。
ザイでは欧米年金マネーが日本株に向かっているとコメント。金価格についても予測。
今月号のマネー誌は、時節柄(笑)注目度高そう。

2016年