豊島逸夫の手帖

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人民元のジレンマが尖閣問題を先鋭化させる

2016年8月12日


マーケット・モニター画面そっちのけで、オリンピック中継に釘づけで興奮の日々です(笑)。
女子200M平泳ぎで金メダルの金藤選手は27歳。先日対談した岩崎恭子ちゃん(またまた同じ写真)もテレビ解説出まくり。彼女がバルセロナ大会の同じ種目で金メダルをとったときが14歳。「今までで一番嬉しい。」と有名なセリフを残したが、苦労人の金藤選手も、生きてて一番嬉しい日になったろうね。


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それにしても、オリンピックのプレッシャーを感じているのは日本人選手だけではないね。他の国でも本命の選手が相次いで、メダルを逃している。
オリンピックの話は尽きないが、まぁ、今日も中国経済の話をしようか(笑)。


人民元が安くなれば、停滞する中国経済からマネーが逃げ出していると理解される。そもそも、中国人が自国の経済の将来に自信を持てないから、人民元は今後も安くなると感じ、資産を海外に移したがる。
巨額のドル建て債務をかかえる国営企業も、人民元が安くなると、借金の重みがズッシリ負担となる。
更に、人民元が安くなると、中国人民銀行が市場に介入して、意図的に自国通貨を安く誘導しているのでは、との疑念が絶えない。人民元安による輸出増を狙って中国発の通貨安戦争を仕掛けている、などと批判される。
人民銀行はドル売り、人民元買いの市場介入を行うから、営々と貯め込んだ外貨準備が、みるみる減ってゆく。
そして、中国経済浮揚のため、中国人民銀行が金融緩和に踏み切ると、人民元安が加速してしまう。
景気を良くしようと金融当局が動くと、マネー流出が進んでしまうことが、今、中国人民銀行がかかえるジレンマだ。

習近平率いる政権本部は、もう経済成長だけを追うのはやめよう、経済成長の質にこだわろうとの戦略を掲げた。公害や腐敗の撲滅を優先させ、経済の足を引っ張るゾンビ企業には退場してもらおう、と明言していた。しかし、中国経済は悪化するばかり。
12日に発表された7月の中国工業生産高が前年同月比6.0%増えたものの、事前予測を下回り、2か月ぶりの低水準。
同じく、7月の中国小売売上高も同10.2%増えたが、やはり、事前予測を下回り、2か月ぶりの低水準。
そして、これが経済の中核を動かす重要な統計なのだが、1~7月の固定資産投資が同8.1%増えたものの、17年ぶりの低水準。この固定資産投資とは、設備投資と建設投資の合計である。ここが伸びないと、強い経済成長は望めない。現在、中国政府が景気浮揚策を打ち出しているのに、民間投資は盛り上がらないのだ。内訳を見ると、やはり、大都市マンション販売鈍化など不動産関連投資が弱い。工業生産も脆弱性が目立つ。特に、石炭、原油、天然ガスなどエネルギー関連の生産も鈍い。例外的に、減税や補助金で販売が好調な自動車が25.4%とシッカリ増えていることか。
こうなると習近平主席の心中も穏やかならぬ。経済が悪化すれば失業が増え、社会不安を招く。党長老たちが最も嫌うシナリオだ。
そこで、一時は経済成長の質向上のためには、成長鈍化も辞さずと大見得きったのに、早くも、その発言は撤回のごときスタンスに変わりつつある。相変わらずのインフラ投資、金融緩和頼みの経済政策に戻ってしまう。構造改革などと美しい話を語る余裕もなくなる。
経済に行き詰まると、国威を発揚させるためには、南沙諸島や尖閣諸島のほうに人民の目を向けさせることが一番効果的なのだね。


今の中国の実態を見ていると、人民元を信用できない人民が金に頼りたがる気持ちが分かる。金はドル建て資産だから、中国人にとっては、堂々と買える数少ない外貨資産ともいえるのだ。金を買うという投資行動は、人民の習近平に対する不信任投票なのかも。

2016年