豊島逸夫の手帖

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イタリアからレポート

2016年12月5日


イタリアは地方分権傾向が強い。政治と金融の細分化が構造改革を阻んできた。そこで、中央集権化を目指したのがレンツィ首相だ。明らかに定員数過多で「決められない」立法府変革のための憲法改正を唱え、国民投票に賭けた。更に、同首相は「国民投票で否決されれば辞任する。」との意向まで示した。振り返れば、これが彼の選択の誤りだったと指摘される。国民投票が事実上の首相信任投票となり、そこに野党が飛び付いたからだ。人民迎合的反EU政党を含め、野党勢力が結集する形となった。

英国EU離脱、トランプ政権誕生の余波が欧州内にも及び、人民迎合的思想が拡散している。同日選挙となったオーストリアの大統領選挙では、第二次世界大戦中のドイツの流れをくむ極右政党候補の勝利は阻止された。しかし、同党が得票率では第一党となった事実は重い。そして、イタリアでの改革派首相の苦境は、五つ星運動などの反EU政党に勢いを与え、「離脱ドミノ」を想起させる。次に控える2017年4~5月のフランス大統領選挙でも、反EUを旗印にする国民戦線の党首が有力候補に挙がる。
時同じくして、トランプ次期大統領も、米国企業の海外進出を封じるなど保護主義的傾向を露にしてきた。
アメリカ・ファースト、オーストリア・ファースト、そして、イタリア・ファースト。

本稿はイタリアのヴェローナで書いているが、今回の国民投票は、長期停滞経済の中で鬱積した国民の不満、広がる格差にやりきれない思いの受け皿と化した感がある。チェンジ=変化を求める姿は、トランプ氏に投票した米国人のイメージとだぶる。
今回の国民投票で、特に改憲に強く反対して、所謂スイング・ステート(選挙戦の鍵を握る地域)となった南部は経済基盤が脆弱だ。例えば、カスピ海から欧州への天然ガス・パイプラインが、イタリア南部に至る計画も、地元のオリーブ畑を荒らすとの反対論で、棚上げされたままだ。

更に細分化された金融システムの中で、放置されてきた銀行の不良債権問題にも、証券化などで改善の方向が視野に入ったときに、政局不安定となった。EUは公的マネーによる救済を禁じているので、禍が銀行発行債券を預金のごとく保有する一般市民に及ぶリスクがある。
既に、イタリアのCDSは英国EU離脱時の水準となり、安全資産とされるドイツ国債とイタリア国債の利回り格差も拡大している。EU亀裂の連想から、悪いユーロ売りが顕在化する可能性もあり、市場の一部はドルとユーロの等価を見込む。

米国ではトランプ政権誕生、中国では習近平国家首席が「核心」となり、日本では安倍政権が相対的に高い支持率を維持するなか、2017年は政治不安定の欧州がリスクの火薬庫になりそうだ。

2016年