豊島逸夫の手帖

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G20中国より原油で動く市場

2016年2月26日

G20のホスト国として、中国政府は、大胆な構造改革に乗り出す本気度を謳うであろう。

過剰な生産能力解消計画として、今後3年に鉄鋼生産能力を1億~1億5千万トン削減を、あらためて強調するかもしれない。

ゾンビ企業の淘汰についても、容赦ない融資引き上げの方針を改めて打ち出す可能性がある。

大量の失業も辞さずの構えゆえ、国民の間には、1998年から当時の朱鎔基首相が断行した国有企業改革で多数の失業者が出た記憶が蘇る。

「明日は我が身」

ジワリと広がる雇用不安への警戒感が、上海株式市場にも影を落としている。昨晩、上海株6.4%急落後、現地の銀行の元同僚たちと話して感じたことだ。

ただ、今回の上海株急落にも関わらず、欧米株は上昇した。

こちらは、中国より原油動向が気になる。

25日には、ベネズエラ石油相が「ロシア、サウジアラビア、カタールが3月半ばにも会合すると合意した。」と語ったことが材料視された。

最近、頻繁に見られる生産国間での対話・協調の兆しに対する市場の反応は「オオカミ少年」扱いで懐疑的だ。

しかし、NY原油先物取引所で空売り攻勢をかけてきた投機家たちの心理は、内心穏やかならぬものがある。NYMEXのフロアーで働くトレーダーたちの声を直接聞くと、「uncomfortable」=気持ち悪いという単語が出てくる。これは、実際に空売りした経験がある人でないと分からない気持ちだが、原油を持っていないのに売る約束をした側に立てば、原油価格上昇を示唆するニュースが入ると、表情には絶対に出さないが、恐怖心に襲われるものだ。30ドル以下で空売りは怖い、というセンチメント(市場の雰囲気)がフロアーで徐々に拡散している。この原油ピット(立会い場)での潮目の変化を見て、金のピットではリスクオフの金買いが後退。原油高が金安を誘発した。同じコモディティーでも値動きは異なるのだ。

そして、この投機家心理は、NYMEXから遠くないNYSEのフロアーにも伝わり、少なくとも「原油安、底なし」の危機感は薄れつつある。今の株式市場には、その程度の束の間の安心感でも上げの材料としては充分だ。

G20もOPECも当面、本格協調は望めない。

G20は口先協調。OPECは協調の本音の探り合い。

マーケットの現場は、G20に向けたルー財務長官の談話により、原油生産国首脳の発言に揺れている。

なお、マクロ経済的に昨日欧米時間の最大のサプライズは、商務省発表の1月米耐久財受注が10か月ぶりの大きさで前月から4.9%増加したこと。振れの大きい経済統計ゆえ、即断は出来かねるが、米国経済景気後退説が高まっている時期だけに、注目度は極めて高かった。

さて、金価格は世界を映す鏡と言われる。

マーケットでも、株・債券・外為・原油の全ての市場が箱庭のように金市場に凝縮されている。だからこそ、私も40年間、常に総合的にマーケットに接してきた。最初の著書に「金を通して世界を読む」というタイトルをつけた理由でもある。

金市場そのものは、そう難しい話ではない。難しくしているのはアナリストたちで、そうしないと仕事にならない。

金を常に世界経済あるいはポートフォリオの一部と見て、マクロ情勢をフォローすることが大切。Big pictureだね。

金需給のファンダメンタルズの構造は変わらない。でもマクロ環境は日々激変する。

今日は高松。日経懇話会。やはり、マイナス金利がトピックになりそう。

今日は日経読者たちだろうから、経済知識持っている聴衆なので、話す方は楽。難しいのは初心者向けだ。マイナス金利にしても、中国経済も、米利上げも、ゴールドにしても、やさしく語ることが一番難しい。

下の写真は、昨日の読売新聞経済面「経済の現場2016、ファンド、国と神経戦、110円へ攻撃緩めず」で筆者コメント。

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日経マネー「世界経済深層真理」も50回目を迎え、今回は「マイナス金利の世界にようこそ」というお題。

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2016年