豊島逸夫の手帖

  1. TOP
  2. 豊島逸夫の手帖
  3. バックナンバー
  4. 雇用統計前夜、利上げに暗雲
Page2149

雇用統計前夜、利上げに暗雲

2016年9月2日

いよいよ米雇用統計発表の前日。立て続けに利上げに「黄色信号」が灯った。

ISM製造業指数が50の大台を割り込み48まで予想外の急落。発表直後に円相場が104円台から一気に1円ほど円高、ドル安に振れたほどの衝撃が市場に走った。これで、直近加速していたドル高相場に急ブレーキがかかった。追い打ちをかけるごとく発表された、8月米国自動車販売数では、日米両メーカーとも下落傾向が顕著になった。

ISMは1930年代から続くマクロ経済指標の「老舗」格。自動車販売数は消費面の実態を映すことで注目を集める指標。

その悪化は、盛り上がってきた利上げ気運に冷や水を浴びせた。

この結果、利上げ決定のハードルが高くなった。トリの雇用統計も、これまでの想定以上に良い数字が出ないと、9月利上げの可能性は低くなる。

今回の非農業部門新規雇用数増加のマジックナンバーは19万人。

ジャクソンホールでイエレン議長とフィッシャー副議長両氏が「雇用増加は3か月平均で19万人と力強い。」と述べ、更に、フィッシャー氏は「次回の雇用統計が重要。」と利上げへの条件を明確化した経緯があるからだ。

ジャクソンホールでは、8月の新規雇用増が19万人近傍であれば、9月利上げの可能性が更に高まり、利上げカウントダウンとなるケースが想定された。

しかし、1日の米マクロ経済指標悪化により、19万人程度では、力不足とされそうだ。イエレン、フィッシャー両氏とも、「利上げ決断の最後はデータ次第。」と文末に必ずヘッジをかけてきたからだ。

例えば、25万人など、事前予測を大きく上回る数字が出ないと、9月FOMCで利上げが決まる可能性は高まらない。

もし15万人以下など低めの数字が出れば、米利上げ近しとの観測をテコに、ドル買い・円売りを加速させてきたヘッジファンドが、一斉にポジションの巻き戻しに入る可能性がある。

その他の重要な雇用統計指標としての、失業率、平均時給、労働参加率などは、構造要因ゆえ、月次で大きく振れても「一時的統計数値の動き」と見做されやすい。やはり、ヘッドラインの新規雇用者増のインパクトが群を抜いて強い。その他の数値は、アナリストの分析に多用されるが、高速度取引が席巻するマーケットは、分析をジックリ待たず動く。

あくまで目途であるが、円相場の方向性としては、25万人程度で105円目標、15万人程度だと、100円目標が想定される。円高か円安か、まさに分水嶺に位置する円相場である。

2016年