豊島逸夫の手帖

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トランプ妥協人事、市場には安堵と警戒

2016年11月14日

まず、金価格が1210ドル台まで暴落中。

ドル高に尽きる。円相場は107円台。円建て金価格では殆ど変化なし。

基本的には、この1200ドル台で支えられると思う。

著名ヘッジファンドのドラッケンミラー氏が、トランプ氏勝利の日に、金を売って株を買った、と発言したことも効いている。

さて、最近開催された初心者向け投資セミナーに異変が生じた。圧倒的に中級者が多かったのだ。それも、トランプ相場に乗り株を買ったばかりの人たちが目立つ。

これは、典型的な「認知的不協和」現象といえる。

例えば、新車の広告を読む人は、その新車を買ったばかりの人たちが多い、という事例がある。

何かを買った人は、常に、自分の選択が正しかったのか、不安心理に駆られる。これが認知的不協和というストレスである。人間は、この認知的不協和を少しでも和らげるように行動するものだ。そこで、新車の広告を読み、心地よい宣伝コピーに接し、自分の選択は間違っていないと自分を納得させるのだ。

トランプ・ラリーで株を買った人たちも、投資初心者用セミナーに参加すれば、肯定的議論を聞き、揺れる心も癒される。

トランプ氏が次期大統領補佐官にプリーバス氏起用を発表したことも、現実路線への傾斜を想起させ、市場には一定の安堵感が漂う。報奨人事と言えなくもないが、大統領補佐官といえば、女房役として最も重要なポジションだ。そこに、保守本流のポール・ライアン氏とも近い人物を持ってきたことで、過激色を薄める効果は期待できる。

いっぽう、最高戦略責任者にはバノン氏起用も発表され、波紋を呼んでいる。トランプ陣営の中心的人物の一人で、人種問題に関するトランプ氏過激発言を肯定して憚らない。バノン氏も、大統領補佐官候補として名前が挙がっていた。

トランプ氏としては、彼に投票した人たちの気持ちに配慮した人事といえよう。

主席補佐官は、まさに現場で指揮を執る役。いっぽう、最高戦略責任者は、トランプ政権の参謀を務める。

この組み合わせに、長期運用の米国年金基金などは、とりあえず安堵しているが、警戒感も払しょくされない。ある米年金担当者の「バノン氏はMake America Great Again(米国を再び偉大に)というよりMake America White Again(米国を再びホワイトに)と言いかねない。」とのコメントが象徴的だ。なお、依然イールドの追求に奔走する年金基金の立場では、Make Portfolio Great Again(ポートフォリオを再び偉大に)が急務とのことだ。

いっぽう、ヘッジファンドのほうは、トランプ・ラリーに乗るべきか否か、意見が真二つに割れている。リフレ相場が続くと見る派と、トランプ相場の第一幕はここまでと割り切る派が拮抗している。週末にジム・ロジャーズ氏とチャットしたが、今後の運用に関して、彼にしては、極めて慎重な姿勢で、未だ多くを語らない。市場で話題のカリスマ・ヘッジファンドのドラッケンミラー氏による「株を買い、金を売る」というコメントに話題を向けたが、「知らない。聞いていない。」と一蹴された。

今月は、多くのヘッジファンドの決算期でもあり、うっかり動けないという内部事情もあるようだ。

年内には、日本流にいえば、「組閣人事」の全貌が見えてくるので、トランプ路線の枠組みは明らかになろう。

2016年