豊島逸夫の手帖

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クリントン氏に屈したカリスマ・ファンド

2016年11月8日

「サブプライムに勝ったヘッジファンド」として一世を風靡したポールソン氏が顧客の解約ラッシュに見舞われ苦戦を強いられている。

その主たる原因がクリントン氏にある。

ポールソン氏は、製薬会社の統合が進み成長性が見込めるとして、製薬会社株の運用配分を急増させた。しかし、クリントン氏が、製薬会社の薬価が高過ぎると大統領選でやり玉にあげたことで、株価が急落したのだ。

大手ヘッジファンドは3か月ごとに保有株式をSEC(米国証券取引委員会)に報告する義務があり、運用状況が開示されるので(レポート13F)、運用総額を比較すると、この5年で1/4の約1兆円前後相当まで急減している。

今年6月末時点で保有が目立つのが、アラガン社の株式3,948,451株、912,448,000ドル。マイラン社、22,028,061株、952,493,000ドル。シャイア社、5,194,600株、956,222,000ドル。テバ社、16,773,800株、842,548,000ドルの4社だ。

今月15日には、9月末時点の13Fレポートが出るが、現時点で、4社の年初からの株価下落率は、アラガン社とテバ社が約40%程度、マイラン社が約37%、シャイア社が約19%となっている。

この製薬関連投資の前には、米国経済回復を見込み、銀行株の運用を急増させ、失敗している。金ETFも買って、国際金価格の変動要因となったほどだ。しかし、今年、金価格が急騰する直前の昨年10~12月に焦れて売り手仕舞ってしまった。カリスマといわれたが、ひとたび歯車が狂うと連鎖的に運用失敗を繰り返したのだ。顧客の年金基金なども愛想を尽かせ、解約が相次いだ。日本の年金にも一時は人気となり、毎年来日して講演すると、会場は満席になったものだ。

ポールソン氏がトランプ氏支持に廻っているとの業界の話題も頷ける。

ヘッジファンド業界全体としても、今年はマイナス・リターンが相次いでいる。

クリントン氏が大統領になれば、金融規制を強める可能性もある。ヘッジファンドが、その対象になるかもしれない。

ウォール街は、基本的に「動きが不透明で読めない」トランプ氏より、クリントン氏の相対的安定性を歓迎する。しかし、製薬セクターは例外である。

なお、ポールソン氏の金投資のリターンと、製薬会社投資のリターンの比較グラフを添付する。差が鮮明である。金をまだ全部売り払っているわけではない。

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2016年