豊島逸夫の手帖

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トランプ氏よりイエレン氏で動く市場

2016年5月9日

金融政策の限界が語られるが、市場を動かすのは、やはり中央銀行のようだ。特に米国市場では、ホワイトハウス報道官のコメントが材料視されるケースは少ないが、FRB関係者の発言は、直接的にマーケット変動要因となる。トランプ氏の発言も、話題性はあるが株価・為替市場への直接的影響は薄い。

例えば、6日に発表された米雇用統計後の市場の反応が示唆的だ。新規雇用者増が予想より下回り、市場では、当初、追加利上げ後退観測が強まり、アルゴリズム取引を中心に、106円前半までドル安・円高が進行した。しかし、米紙でのNY連銀ダドリー総裁コメントが市場の流れを変えた。

「(雇用統計の結果は)予測よりやや弱いかもしれない。しかし、私の経済見通しに関しては、それほど重視していない。今年の利上げ2回が、リーズナブル(合理的)な期待値であることに変わりはない。」

市場の利上げ後ずれ予測に釘を刺すような発言で、市場のドル売りムードも一変。週明け9日のアジア市場でも、107円半ばまでドル高円安に転じている。

市場の視点では、ダドリーNY連銀総裁の後ろにイエレンFRB議長の影がちらつく。

かりに、イエレン氏が同様の発言をしたら、ドル高円安はもっと急激に進行したであろう。

そもそも、今回の円高過程を振り返ると、やはり、ニューヨーク・エコノミック・クラブでのイエレン氏のハト派的講演内容がドル安を加速させる大きな要因となっている。

しかし、イエレン氏の側近のタカ派的発言が伝わると、雇用統計後の市場の方向性を180度変える結果になる。

マーケットでは、イエレン議長利上げ決断のときのドル買い・円売りの予告編を見せつけられたようなものだ。

ここに、東京市場とNY市場の温度差を感じる。

日本では円高論が優勢だが、NY市場では、いずれ利上げは不可避ゆえ、現在のドル安・円高も賞味期限限定との見方が目立つ。中長期的にドル高トレンドがドル安トレンドに転じたのか、と問われれば、それほどドルに弱気ではない。結局、利上げ執行猶予期間が例えば、6月から9月まで延びたという感覚で受け止めている。投機筋は、まだ9月までドル売り円買い攻勢を仕掛けられるとの思惑で動く。いっぽう、長期マネーは、利上げ時期が明示されるまで、リスク回避の動きに傾きがちだ。

FRBが利上げをすれば、セオリー通りにドルは買われ、円は売られる。いっぽう、利上げを見送れば、ドルは売られ、円は買われる。

しかし、日銀やECBが追加緩和してもしなくても、FRBが利上げ執行を猶予する限り、円・ユーロは買われ、ドルは売られてしまう結果になっている。

やはり、米ドルが国際基軸通貨である以上、FRBが実質的に世界の中央銀行と市場では見做されている。

そして、金価格は1280ドル台。プラチナは1070ドル台。底堅い。金・プラチナ値差は更に縮小。一時は300ドルまで拡大したけど、200ドル前後までになってきた。

シルバーはやや息切れ。飛ばし過ぎの反動。

今日の写真は、季節の白アスパラ。でかいホンモノ。そして茹でると甘さが香る。フランクフルトで食べたのを思い出した。



欧州では桜前線ならぬ白アスパラ前線が北上中。時期的には、もう、そろそろ終わり頃かな。

2016年