豊島逸夫の手帖

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南仏トラックテロ、中国経済成長そして、LINE上場

2016年7月15日


ニースで勃発したトラックが花火客の列に突っ込むという前代未聞のテロ。花火見物と車両の歩行者への突入は日本でも見られることゆえ既視感がある。しかし、それがテロに使われるとは。これで、フランス国内では反EU政党「国民戦線」への感情的支持が強まることになろう。移民制限、孤立主義などの傾向が顕著になると、英に次ぎ、仏がEU分裂への引き金を引くことになりかねない。


そして、中国経済成長率は、4~6月期で6.7%。
結局、不動産バブルと財政出動によるインフラ投資がけん引役となっている現状は変わらない。民間企業は工場建設などの投資を手控えるが、国有企業は国有銀行からの融資でインフラ投資を増やすという構図。更に、銀行新規融資は6月だけで1.3兆元も増加。政府は中国のかかえる債務問題解決を先送りにして、当面は経済成長維持(=失業減らし)に重点を置くことが露わになっている。


そしてLINEが日米証券取引所に上場。
かなりの米国人投資家が、LINEという企業を知らない。今年最大級のIPOということで急速に認知度が高まっているが、話題になればなるほど会社紹介を求められる。対話アプリとしてはフェイスブックのWhatsAppが一般化しているので、LINEは、聞き慣れない名称なのだ。
とはいえ、連日最高値更新のNY株式市場は、貪欲に「LINE上場」を買い材料として取り入れる。
14日のNY証券取引所は、緑のLINEロゴマーク一色。取引開始から小1時間ほど経ち、初値が42ドル台と、公募価格の3割アップ程度で寄り付いた瞬間には期せずして拍手が起こった。
LINE上場がこれほど注目を集めたのには、二つ理由がある。


一つは、今年、NY株式市場でIPOが精彩を欠いていたので、株価最高値更新の高揚感の中、いよいよIPOにも人気が戻ってきたか、との期待感が指摘されていること。
そして、Brexit懸念が一巡したことの象徴として、「日本株急騰と円高一服」が語られるので、LINE上場が市場の高値警戒感を払拭している結果になっていること。
今や、円高は、世界の株式市場にとっても「不気味な不安要因」とされ、VIX指数のごとく注視されている。その円相場が100円台から105円台まで円安に転じたことが、NY市場にも安心感を与えていることは間違いない。時間帯から見ても、世界で最初に開く、いわば一番バッター役の日本市場が連騰すれば、後に続く欧米市場のモメンタムを勢いづける。世界株高連鎖を「キックオフ」しているという表現が印象的だ。


とはいえ、気になることもある。
金利の絶対水準が依然低い状況が続いていることだ。
14日には、ブラックロックCEOが、米10年債利回りが0.75%になっても驚かないとテレビで発言して話題になった。株と債券の同時高は、世界的金融緩和現象がもたらした珍現象ともいえる。債券利回りが低いので、株式配当の相対的高さが注目され、投資家はインカム追求の流れの中で、株を買う。いっぽう、中央銀行が国債を買ってくれるとの期待感で、マイナス金利の国債も、キャピタルゲイン期待により売買される。そこに、国債を満期まで持ちきる様子はうかがえない。株にインカムを求め、債券にキャピタルゲインを期待する現象に、一抹の不安を感じつつも、最後は、「中央銀行頼み」という本音が透ける。14日にはアトランタ連銀ロックハート議長が「慎重な政策対応が必要」との見解を示した。しかし、市場は、「金融当局の対応が後手にまわっているわけではない」と利上げ先送りがバブルをもたらすリスクを事実上否定したことのほうを重視している。


株式市場の視点では、債券安・株高の組み合わせが、最も「しっくり」くる。それゆえ、世界的緩和でジャブジャブになったマネーが株にも債券にも流入している事実は株高の持続性に関する議論で必ず話題にされている。
株は楽観論で育ち、債券は悲観論で育つ。
Brexitショックをどうやら脱したか、との楽観論が高まるなか、マイナス金利の債券が貪欲に買われるとなると、素直に低金利歓迎ともいいかねる。
楽観と悲観が交錯するなか、経済指標が悪ければ、中央銀行が緩和に動いてくれるので、「悪いニュースも良いニュース」とされる。
これは、中央銀行としては本意ではあるまい。市場と金融当局のコミュニケーションに、ヒョッとすると誤解があるのかもしれない。


そこで思い出されるのは、2013年5月に起こったテーパー・タントラム現象だ。市場はFRBの量的緩和が長期化すると読み、QE3、QE4どころか、QEエターニティー(永遠のQE)との造語まで出来た。そこに、当時のFRB議長バーナンキ氏が「量的緩和縮小=テーパリング」を示唆したので、国際金融市場が大きく動揺した。
未だに市場関係者の間では語り継がれる、このイベントが忘れ去られるとき、マーケットは無防備状態になる。


金は買いポジションの売り戻しが続いているが、それでも1320ドル台を維持している。株も金もポートフォリオとして保有されているわけだ。


そして、今日の旨い物写真は札幌イタリアン。
キュウリやゴーヤをあえたパスタ。


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香ばしく焼いた北海道トウモロコシのリゾット。


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地元の鶏肉とパルメジャー風チーズ。ジャガイモにパプリカソース。


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北海道ならではの新鮮な材料を使った札幌イタリアンはレベルが高い

2016年