豊島逸夫の手帖

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日本、為替監視対象国入りの衝撃

2016年5月2日


日銀が追加緩和に踏み切れなかった真の理由はここにあったか。
米財務省の為替報告書は、日本とドイツも「為替監視リスト」に含めた。為替操作国として認定するためには以下の3つの条件がある。


1. 対米貿易黒字が年200億ドル超
2. 経常黒字がGDPの3%超
3. 一方的な為替介入がGDPの2%超


この3条件を満たせば、米国は制裁に動くという内容だ。
制裁策としては、米国政府の物資購入先から外す、IMFに厳しい経済監視を求める、貿易交渉相手から除外する、などが挙がっている。日本は、1と2の条件を満たしている。実質的に日本と中国を狙い打ち。中国は、人民元も当面安定しており、お構いなしとの姿勢だ。
「この内容を日銀は察知していたのでは。」とのNY筋の見方を聞いたとき、「これで日銀は追加緩和出来なかったのか。」との可能性がちらついた。

黒田総裁は、日銀金融政策が円安を意図せずと明言する。しかし、海外市場で、その発言を額面通りに受け止める関係者は殆どいない。日銀も、当然、その実態は把握していたであろう。
そう考えてみると、先月初旬から、外為市場では事前注目されていた為替報告書の発表が遅れたことも、不可解との印象も受ける。
トランプ旋風に煽られている米国民感情を直接感じつつ、市場と向き合っているNYのファンドは、今回の為替報告書に特に注目していた。米国内で高まるドル高批判への対応は、ドル相場に大きな影響を与えるからだ。


そのような市場環境で、日銀金融政策決定会合直後、円が106円台まで急落するなかで、同報告書が発表されたことは、「介入への強烈な牽制球」と受けとめられる。
日本側は、麻生財務相が、間髪入れず、「一方的で偏った投機的な動きを極めて憂慮。」「(為替介入など)我々の対応を制限することは全くない。」と反論した。


「通貨戦争」の様相が頭をよぎる。
日銀が介入を強行すれば、米議会は保護主義的制裁を論じるであろう。いっぽう、安倍政権側は、選挙を意識して、円高・株安に対して、毅然とした対応が迫られる。財政政策は勿論だが、高まるヘッジファンドの投機的円買いを直接抑え込む即効性には欠ける。報道されている選挙候補日には間に合わないだろう。


日本側の言い分としては、参加者が少ない大型連休中に、投機筋の思うがまま市場を荒らされ、円高が加速することが、果たして、ルー財務長官のいう「orderly」=秩序的な相場といえるのか、ということになろう。
通貨安政策は近隣窮乏化と非難されるが、投機筋の思惑で円高が急激に進行して世界第三位の日本経済が円高デフレに戻るシナリオは世界経済にとっても決して好ましい現象ではない。バーナンキ前FRB議長は、世界同時緩和を近隣富裕策(enrich-thy-neighbor)と表現したこともある。


足元でも、先週金曜日のNY株安について、要因のひとつに「日銀サプライズ円高」がしきりに語られた。今や、円は欧米市場で「安全通貨」とされ、円高はVIX指数なみに市場の不安心理を映す指標と見られ始めているからだ。円高が世界の市場のセンチメント(雰囲気)を冷やす側面も無視できまい。


おりからNY市場では、著名投資家アイカーン氏が、テレビインタビューで「アップル株を売る。」と発言してアップル株価が続落。同氏の影響力は強く「市場にはいずれ、最後の審判の日が来る。」と予告したことも、NY市場では大きな話題となっている。
アベノミクスの審判の日は、さしずめ選挙ということになろうか。
その前に、安倍政権は重い選択を迫られている。


そして、金価格は1290ドル台、プラチナも1070ドル台にまで急騰。背景には、FOMC利上げ見送り、日銀追加緩和見送りによるドル安加速がある。ドルインデックスも一時は100に達していたが、4月から95、94、93と水準を切り下げている。
プラチナは200日移動平均線を本格的に上放れ、上昇相場入り。
貴金属市場の弱い材料と言えば、中国の実需が高値圏ではパッタリ止まっていることか。ただ、中国国内で、株から商品先物へマネーが流れているので、金が買われる市場環境ではある。当局は鉄鋼などの商品先物過熱を懸念して、規制に乗り出している。


いやはや、日本の連休中に、なんで、こんなに相場が動くのか。うらめしや~~~~(笑)。

2016年