豊島逸夫の手帖

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メイ英首相の誤算

2016年10月4日

メイ首相がEUとの離脱交渉を来年3月までには開始すると発表したことは「拙速」との声が英国内に目立つ。市場には、英EU離脱の第二幕を懸念する見方も出始めた。

メイ首相が交渉開始を急いだのは、党内強硬派の意向を無視できなかったからだ。

離婚に例えれば、国民投票で「離婚したい」という願いが確認された。とはいえ、離婚するには、財産分与、親権などの諸問題を話し合いで解決する必要がある。そこで、離婚の協議を来年3月までには始めよう、ということだが、交渉には最低2年かかる。そこで、一刻も早く分かれたい、という強硬派がメイ首相に圧力をかけたのだ。

しかし、問題は、交渉開始期限を3月までと決めたので、英国側が明らかに交渉上、不利になることだ。

とくに、最低2年かかる交渉の間は、離婚したいが、未だ離婚届に判は押していない、という宙ぶらりんの状態になる。もはや実質上はEU加盟国とは見做されず、EUサミットにも呼ばれず、かといって、EU単一市場へアクセスも出来ず締め出される。その間の交渉で、パスポートと呼ばれる英国進出の外国企業がEU圏内諸国と自由に取引できる制度をどうするか、英国とEUの間の関税はこれまでゼロだが、これからどうするか、など重要事項が決まる。では、最終決定するまでの過渡期2年間はどうするのか。ここが決まらないことで一番損するのは、英国だ。英国の輸出相手国のなかでEUが占めるシェアは44%。しかし、EUの輸出相手国のなかで英国のシェアは16%に過ぎない。明らかに、英国のほうが失うものは多い。しかも、その宙ぶらりんの期間が長引けば、英国への投資マネーも逃げていってしまう。

結局、メイ首相は経済の損得より、党内事情のほうを優先した。自分の支持基盤を固めたかったのだ。

そもそも、英国側は、主権を取り戻し、移民を規制することがEU離脱の目的だ。対して、EUは英離脱が他の加盟国離脱という連鎖ドミノを誘発して、EUがバラバラになることだけは絶対に避けたい。そこで、離婚すれば、こんなに酷い生活になるのだ、ということを思い知らせ、見せしめにもせねばならない。

そこで、英国側の思い描く希望シナリオは、国境をまたぐ人の出入りは制限して、移民を規制するいっぽう、EU諸国とは、これまでどおり、自由に貿易を続けられること。でも、EU側は、そんな、自分に都合の良い通りには事は運ばないよ、と強硬な態度をとる。EU単一市場に参加したければ、国境の規制も自由にしなさい、と英国に迫る。

どうみても、この離婚騒動、簡単ではないね。離脱交渉を長引かせて、少しでも、自陣に有利な条件を勝ち取ろうとする英国側のメイ首相自ら来年3月と交渉開始時期を明確に決めたことに、EU側が「シメタ!」という感じだろう。

そして、今日の写真。

札幌、大通り公園の秋フェスタで。シュラスコならぬシカスコ(笑)。


そして、ゴルフ場での、えぞシカの親子と、キタキツネ。



2016年