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バーナンキ氏が説く、FOMCの見方

2016年12月14日

いよいよ今晩、FOMC声明文が発表され利上げの有無が明らかになる。今回に関しては、既に利上げは織り込み済みで、注目は、来年の利上げ回数だ。そこで、同時に発表される四半期ごとのFRB経済予測に関心が集まる。特に、その中の、「FOMC参加者による将来の金利予測」所謂ドット・チャートが、最も具体的な手掛かりとされる。

このFRB経済予測(略称SEP)について、前FRB議長のバーナンキ氏が、ブログで、今だから言えるような実情、問題点などを指摘しており、興味深い。

まず、SEPは、一本の藁をかざせば風の方向に靡くように、風向き(FOMC内の動向)を示すもの、と述べている。FOMCはコンセンサスにより動く。従って、予測の「中心値」を見て、FOMCの政策を導けるほど簡単ではない。SEPは、FOMC内の様々なセンチメント(雰囲気)を映すというわけだ。

SEPに加え、地区連銀理事の発言も多岐にわたり、非常に分かりにくいという批判があることを認めている。「FOMC内の不協和音」という指摘に対しても、「同情の余地あり。」と述べている。

それゆえ、バーナンキ氏在任中には、「FOMCのコンセンサス予測」や「代替シナリオ発表」も試みたが、FOMC参加者の見方があまりに割れているので、叶わなかったとのことだ。

そこで、SEPは「取扱い注意」の文献ということで、注意点を三つ挙げている。

1)SEPはFOMCの政策をコミットするものではない。FOMCの実際の決定が、SEPにより縛られることもない。もし、FOMCのコミットメントであれば、記者会見で議長自らが明らかにする。

2)SEP内の金利予測は条件つきである。タカ派の参加者なら、利上げせず、低金利を継続すればインフレ率が目標を上振れするとの予測の条件を設定する。そのうえで、そのタカ派参加者は、金利予測を高めに設定して、インフレ率を目標値内に収めるシナリオを描くわけだ。

3)SEPにはFRBの経済モデルによる「公式」FF金利予測も載っている。ドット・チャートと異なり、様々な予測値の分布ではなく、FRBが見るもっとも可能性の高い金利予測だ。しかし、近年、FOMCは雇用・物価が、FRBの経済モデルより下振れするリスクを警戒する傾向がある。その結果、FOMC参加者は低金利を継続すべしと考え、個々の金利予測もFRBの公式見解より低めになりがちだ。いっぽう、民間の債券トレーダーは、FRBの経済モデルより、FOMC参加者による様々な予測の中心値を重視する傾向がある。ここに、民間とFRBとの間で見解の相違が生じる。

以上の「取扱い注意」事項を踏まえたうえで、FOMC声明文とSEPを読むべし、とバーナンキ氏は説いている。

要は、SEPを書くFRBのエコノミストたちと、FOMC参加者の間には、見解の相違もある、ということだ。

注目のドット・チャートも、あくまで様々な予測値の分布図として見るべきで、実際にそれが当たるか否かは別問題。但し、前回と今回の違いは相対的変化として重視すべきであろう。

それにしても、バーナンキ氏でさえ、計りかねる部分があるというのだから、民間の市場内で、解釈が異なるのは当然ともいえる。

まして、トランプ次期大統領とイエレンFRB議長の間には隙間風が吹いているようだ。

中銀主導相場からトランプ主導相場に転換しつつある現在、仮に利上げが決定されたとしても、それを受け、トランプ氏が朝3時のツイッタ―で、何かつぶやくのか。バーナンキ氏在任中にはあり得なかった要因が、今や、厳然として存在する。

積極財政と正常化に向かう金融政策のポリシーミックスは、市場の不透明感そしてボラティリティーも高めることになろう。

さて、昨日は、1万3千人参加という、投資IRフェアで講演してきた。トランプ相場の影響で、前年比5割増しという参加者数。会場はブースの呼び込みなどの騒音で、ムンムン状態。ピーク時は、あたかも、年末のアメ横みたいだった。一般ニュースにもなったほど。

平日の昼間ゆえ、大半はシニア層。多くが、今回の相場に乗れず焦っている。出展社は、大企業そして、名のあるアセットマネジメント会社が殆ど。各ブースでは、ミニ説明会が開催されている。

焦って売買するとろくなことがない、というのが私の持論。

じっくり企業の業績など勉強して知識を蓄えるには良い機会だと思う。

私は、プラチナについて、語った。株売買している投資家には、ボラが高く、割安感のあるプラチナへの興味が高いので。

身を乗り出して聞く聴衆の姿が印象的だった。

思うに、株が上がったほうが、投資家の心理にも、余裕ができて、金・プラチナなど新たな資産運用も試してみようという気になるものだね。株が下がると、そういうアニマルスピリッツも萎えてしまうようだ。これが、投資家のリスク許容度ということか、と感じたよ。

2016年