豊島逸夫の手帖

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マイナス金利の死角

2016年2月2日

「利上げの新たな手段として、金融機関がFRBの口座に保有する超過準備への付利を引き上げた。」

1日のフィッシャー副議長講演での発言だ。

かたや、付利引き上げ、かたや、付利引下げ。

日銀が民間銀行当座預金口座への付利をマイナスに引き下げた直後の講演だけに、日米金融政策方向性の違いが鮮明である。

FRBは、民間銀行に、もっとFRBへの預金を増やしてくれ、とのメッセージを発している。量的緩和でばら撒いた過剰流動性の回収に取り掛かっているわけだ。

いっぽう、日銀は、民間銀行に、日銀への預金は減らしてほしい。量的緩和もまだまだ国債を買い増す意欲満々だが、肝心の現物が枯渇気味だ。

対象的に、FRBは、量的緩和で大量購入した国債を減らす方向に動いている。そこで、1日のフィッシャー講演でも、「リバース・レポ」を活用して利上げ目標への「ソフトランディング」を図る旨、語っている。保有する国債を担保に、民間から資金を吸収するオペだ。FRBが自ら国債の売り方に廻ると、ドル金利が乱高下して「ハードランディング」になるリスクがあるので、リバース・レポという穏当な手段を試している段階だ。

とはいえ、米国債も日本国債も、債券市場では、「人気商品」だ。

米国債は、リスクオフのときに、安全資産として買われる。その最大の理由は、ずばぬけた市場規模にある。いつでも売りたいときに売れるという安心感。「安全への逃避」と「流動性への逃避」の受け皿としての人気は、今年に入っての世界的市場混乱の中で、益々高まっている。FRBの利上げにも関わらず、米国10年債利回りは2%の大台を割り込んでいるのだ。

いっぽう、日本国債は日銀の買いで常に品薄状態。既に、短期国債利回りには、マイナス金利現象が生じていた。そこに日銀が民間銀行の当座預金に対してマイナス金利を導入したので、長期債にまで、マイナス金利が波及している。おカネを10年近く貸すのに、毎年の金利を徴収するどころか、貸す側が金利を払うというのだから、異常な現象としかいいようがない。

ここは、債券市場の基礎知識が必要で、一般の人には分かりにくいところなのだが、国債の「価格」も日々変動している。満期まで持ちきれば、確定利息を受け取れ、元本も保証される安全資産だが、満期前に売買すれば、差益・差損が生じる。そこに収益機会を求めるのが債券ディーラーたちだ。一般の話題になりにくいのは、参加者が、国債を発行する財務省、量的緩和で買いに廻る日銀、そして、大手証券会社・銀行に限定されるので、目につきにくいからだろう。

その債券ディーラーの立場で見れば、マイナス金利の国債でも、今の市況では、買って儲かる可能性大である。まず、日銀自体が買い意欲満々だ。更に、日銀が今後の金融政策決定会合で、マイナス金利を0.1%から0.2%、0.3%と引き下げる「利下げ」が見込める。債券の利回りが下がるとき、債券価格は上がるので、今買えば儲かるとの読みである。債券市場のイロハだが、一般人の感覚では分かりにくい点であろう。この説明でも納得できない読者は、金融の教科書でも読んで勉強してほしい。

かくして、長期国債でも、マイナス金利、あるいは、札割れ発生の事例が増えそうだ。

これは、銀行の経営を揺るがす事態になりかねない。特に、巨額の預金を集めているが、融資機会が少ない、あるいは融資ができない銀行は、これまで、ありあまるおカネを国債で運用してきた。

そこで、日銀も、救済支援措置を講じざるを得ない。

これまで、日銀の民間銀行口座に0.1%の金利が支払われていたのが、その際たる事例だ。更に、今回のマイナス金利も、これまで積み上がった預金残高には適用されず、今後発生する新規預金のみが対象になっている。これも、銀行経営へのダメージを食い止めるための苦肉の策だ。そのため、マイナス金利政策の効果が薄まることにもなることは承知の上だ。

日銀としても、綱渡りを強いられている。決断した総裁と行内の現場には温度差があることも、OBたちから、もれ聞こえてくる。

株式市場への波及要因としても、債券市場動向から目を離せない。

なお、振り返れば、1月26日付け日経電子版「株1万6000円割れならアベノミクス危機」に、「なんとしても死守せねばならぬ」と書いた。しかし、黒田総裁がダボス会議に向け出発したのは、22日未明。既に、あの時点では、1万6000円死守のための策が検討されていたのだ。

次に、最新英文原稿。英語お勉強したい人のために。

How long will BOJ's 'Penalty' work?

http://asia.nikkei.com/Politics-Economy/Economy/How-long-will-BOJ-s-penalty-work


そして今日の旨いもん写真。

大手町で今最も人気のホテルアマン。高層階でのディナー。

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生ハム・ビーツソースかけ。


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真鱈と白子。寒いから白子の鮮度が抜群。熱の通し方も良かった。クリーミー!

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同席したNHK国際ニュースのキャスター(2011ミス日本)の手相を東大卒スピリチュアル系女子が鑑定中。

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話題は、マイナス金利の今後よりSMAPの今後(笑)。

2016年