豊島逸夫の手帖

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サウジ・イラン外交断絶、ほくそえむIS

2016年1月4日

原油安によりサウジアラビアが事前予測よりかなり厳しい緊縮財政を打ち出したことが、連鎖的反応を誘発して、ついにサウジ・イランの国交断絶にまで至った。原油先物市場で空売りに走っていた投機筋には心中穏やかならぬ事態であり、NY市場では買い戻しラッシュが起こる可能性がある。40ドルの大台回復も視野に入る。

本欄1月1日付け原稿の冒頭でサウジ緊縮がテロを生む可能性を指摘したのだが、その後の展開のスピードは予想をはるかに上回る。

ここで、日本の正月休暇中の展開を振り返ってみる。

―サウジアラビアがテロ容疑で47人を処刑。その中に、シーア派系指導者が含まれたいたことで、イランが猛反発。サウジアラビアの視点では、緊縮財政が誘発する社会不安=テロリスト醸成の可能性に対する先制措置とも読める。当初から緊縮とテロリスト処刑はパッケージだったのかもしれない。

―テヘランのサウジ大使館に抗議グループが乱入。火炎弾で炎上。79年に起きたテヘラン米国大使館人質事件を想起させる事態となった。

―米国政府が、懸念表明。サウジに司法制度・人権問題の観点から自制を求める。処刑は斬首・銃殺などISとさほど変わらぬごときやり方であった。

―イラン側は、当初サウジ大使館乱入者を逮捕し、市民に自制を求めたが、その後、「このままではすませない。」と「復讐」に言及して、態度を硬化。

―サウジアラビアはイランとの国交断絶を表明。

まさに、めまぐるしい状況の急変である。

イランとサウジアラビア対立の構図は複雑だ。

まず、シーア派対スンニ派の宗教要因。特に、スンニ系のサウジアラビア東部には、多くのシーア派市民が住まう。

次に、シリア・イエメンが両国代理戦争のごとき場になっている。特に、シリアでは、イランがロシアと組みアサド政権支援。サウジは米国主導の有志連合に加わり、反政府勢力に資金援助。この対立が激化すれば、ISの思うツボである。

そして、OPECの場でも、両国はまっこうから対立している。イランは、経済制裁でイラン産原油輸出が減った分をサウジアラビアが増産していると不満を持つ。サウジは、イラン経済制裁解除後、原油輸出再開による供給過剰を懸念。最近では、イラン・ロシアなどが同意すれば、OPEC減産やむなしの姿勢を見せている。

原油価格への影響も、大生産地帯であり、ホルムズ海峡を挟むので、原油生産が少ないシリアの比ではない。

ゆえに、原油を持っていないのに原油を先売りした投機家たちにとっては、気持ち悪い地合いとなる。

外交的には、米国が微妙な立場に置かれる。

サウジと対IS掃討作戦では協調するが、サウジ国内テロへの対処法は容認しがたい。サウジは、イラン核開発問題解決を巡り米国がイラン寄りに傾いている姿勢がおもしろくない。更に、米国のシリア介入が出遅れたことが、状況を悪化させたと見ている。

そして、EUと米国にも温度差がある。米国では、シリア・イラクなどへの渡航歴があると米国入国にあたりビザ免除を適用せずとの法案が議会で承認された。その対象国にイランも入ったことで、経済関係が深い欧州諸国が反発しているのだ。

これら一連のこみいった状況に、ほくそえむのはISだろう。

そして、プーチン大統領の視点では、ここでイランへの説得工作に動くことで、外交的な「白馬の騎士」役を演じる機会が巡ってきたことになる。

新年早々、IS問題に新たな変数が加わってしまった。

金価格は1060ドル台で著変なし。

原油に比し、値動きが重いともいえるし、安定的ともいえる。

さて、正月は、やっと積雪で初スキー。

そして、新春恒例歌舞伎座で、がんじろはんと玉ちゃんの絶妙な「吉田屋」見た。

おせちは自家製とマガーリのイタリアンおせちのコラボ。ワイワイ言いながら食べ尽くしたw

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元日は日経電子版トップ面アタマに「豊島逸夫が読む市場の行方」が来たので、新年早々対応に追われた。

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それにしても、暖かいお正月だったね~~。

4日の日本株は、午前中に日経平均500円以上下げ、円は119円台と、波乱の年明け。

2016年