豊島逸夫の手帖

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どこまで続く円高

2016年8月3日

100円台のターゲットを早くも達成した後、ヘッジファンドは、99円台を試しに動くのだろうか。

更なる円高が進行する条件は整っている。

安倍首相が打ち出した28兆円規模財政政策も、欧米市場では、「フレッシュ・ウォーターが10兆円をかなり下回る」とされ、総じて冷ややかな見方が目立つ。50年債発行報道が流れた時には、106円台まで円安に振れた市場も、麻生財務相が40年債増発検討発言には反応しなかった。ヘリコプターマネーも、黒田総裁との連携プレーを連想させて匂わせるだけでは、市場を動かす材料として陳腐化しつつあるようだ。

そして、債券市場の乱が勃発して、日本国債が売られ、長期金利が急騰したことで、直接的に日米金利差が縮小している。

いっぽう、海外では、逃避通貨としての円へ資金流入を促すような不安要因が相次いで生じている。

まず、原油先物価格が40ドルを割り込み、再び、原油安が市場をかく乱する事態が懸念される。結局、原油市場を荒らす投機マネーのポジション整理が一巡すると、需給ファンダメンタルズの緩みが顕在化する。原油高の限界を市場はあらためて思い知らされた。

次に、欧州の銀行不安だが、ストレステストが終わった後も消えず、欧州株安を招いている。民間資金需要が盛り上がらない中でのマイナス金利が銀行経営を悪化させる状況に変化はない。

勿論、英EU離脱の本格的影響はこれから始まる。

更に、中国では、人民元安進行を嫌うマネーの流出が後を絶たない。足元では、人民元相場がやや上昇する局面も見られるが、これとて、ドルが下落した故に生じた現象だ。中国当局は、逃げるマネーを、モグラたたきのごとく叩く作業に追われる。

米国に目を転じれば、大統領選挙は、どちらの候補も保護主義=ドル安を選好している。

そして、利上げ観測が相変わらず揺れている。ひとつだけ明確なことは、利上げペースが緩やかで低水準に留まるとのイエレン氏の方針だ。金利を生まない金価格が利上げ観測にも関わらず上昇を続けている最大の要因も、ここにある。

ただし、今週末の雇用統計が、事前予測を大幅に上回るサプライズを演じれば、利上げ見通しが一気に強まる可能性もある。

ここまで円買いを仕掛けてきたヘッジファンドも、雇用統計だけは読み切れない。

本欄では、この3回続けて、ヘッジファンドが100円を目標に執拗に動いていることを警告してきたが、このまま一気に99円台を試す意図はさほど感じられない。

なにせ、彼らの台所も火の車なので、「含み益あれば、目標達成後、まずは実現しておく」傾向が強い。英EU離脱後のポンド売りも、短期で手仕舞われ、ポンド相場が反騰した。

ただし、円安に反転したところでは、再度、円買いを仕掛ける目論みも透ける。その時は、95円狙いとなる可能性も感じている。円を取り巻く上記の市場環境が一過性とはいえないからだ。

日本企業の想定為替レートも、更に円高方向に修正を余儀なくされそうだ。

ヘッジファンドの日本株離れもまだしばらくは続く気配濃厚だ。

ただ、米年金など長期マネーでは、欧州株の運用比率を低め、少なくとも財政出動が見込める日本株のウエートを高める動きが散見される。安倍政権が参院選に勝利したことも、長期マネーは「安定政権が見込める」と評価する。低イールドの追求に明け暮れるなかで、株式運用も「どこの国も構造問題をかかえる。ぜいたくは言っていられない。」との本音が印象的であった。

ドル安で、貴金属市場は、金1360ドル台、プラチナ1160ドル台。続騰。昨年から、ずっとプラチナを推奨してきて、やっと報われた感じ(笑)。

仕事のほうは、明日、日本政策金融公庫のセミナー講演。

明後日は、朝日新聞の対談。

それにしても、千代の富士死去には驚き。

筋肉は鍛えられるけど、内臓を鍛えることはできないのだね。

筋肉はいじめろ、内臓はいたわれ、という私の主治医の言葉が沁みる。

千代の富士は、親しい知り合いが後援会長なので、色々な場面で見ることが多かった。最後に見たときに、顔が激やせしていた。癌を公表した後だった。合掌。

2016年